完走したドラマ2024春

2024年春クールに放送されたドラマを淡々と語っていく本稿。完走したドラマの総括と、番外編としてスペシャルドラマの感想も綴っていきます。各話の感想はX<@sncojp>でちょくちょく更新しているので、こちらもチェックしていただけると嬉しいです。

この春完走ドラマは11本。『アンメット』に癒され、『燕は戻ってこない』に息をのんだいい春でした。では!

東京タワー

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透は建築家の詩史と、耕二は専業主婦の喜美子と。それぞれ20歳以上離れた女性との恋に溺れていくラブストーリー。

このドラマのすごいところは、“不倫は儚く麗しいもの”と思い違えてしまうほどの映像美を毎秒たたき出したところじゃないだろうか。それくらい不倫ドラマによく見られる嫌悪感とかそういうものが皆無で、爽やかで涼やかでどこを切り取っても本当に美しかった。

ラストに関しては、あまりにも女側ばかりが代償を払わされている感じがしたけれど(家庭を失うことも透や耕二を突き放して孤独を選択したことも含めて)、それを受け持つことが歳上であり女であるプライドでもあったのかなと。男はいつでも少年で、女はいつでも大人、そんなそもそものアンバランスさも物語を刹那的にした要因だったのかもしれない。

95

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1995年の地下鉄サリン事件をきっかけに、生きることにがむしゃらに向き合った5人の熱い青春譚。1995年の背景として、前述したサリン事件をはじめ、阪神大震災バブル経済の終焉など、いずれも明るい展望のない時代だった。そんな世紀末の薄暗さ、閉鎖感とどことなく不安をかかえる青い若者たちがリアルに画面に映し出されていた。物語の「平成感」もさながら、色彩や画面の荒さ、平成ならではのアイテムなど細かいところに凝っていて、見るたびに1995年にタイムスリップしてしまうのがこのドラマの目を見張るところ。

後半はハードな展開が続いたけれど、青春物語らしく爽やかな終わりに。Qが未来を変えていくが大題、でも結局は翔に魅了された男たちの物語だったのかなー、とも。役者さんみんな成人してるけど、高校生役違和感ないのスゴイ。

おいハンサム‼︎2

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由香、里香、美香の三姉妹と、彼女たちを見守る父母の恋とごはんと家族をめぐるコメディ作。続編ということで家族間や周囲との軽快な会話劇はそのままに、笑いの要素はさらに切れ味鋭くパワーアップしていた。おいハンサム‼︎の面白さは、コメディと社会風刺の絶妙な塩梅はもちろん、ワードセンスの秀逸さよ……(ぜひ見て笑ってほしい)。 伊藤家はもちろん彼らをとりまくキャラクターたちも曲者揃いでハイセンスすぎるので、演じている役者さんごとまるっと好きになってしまう。そんな吸引力が突出したすばらしいドラマだった。

あと、姉妹はわりといつも悩んでいるけれど、個人的にはすごく健康的なドラマだなという印象。だから安心して見られるし、栄養にもなる。これは映画化も見逃せない。

滅相も無い

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堤真一窪田正孝中川大志をはじめ豪華俳優陣がおくるオムニバスドラマ。突如巨大な穴が現れた日本で、穴に入るか悩む男女が人生を語っていく。舞台作家としても活躍する監督が脚本も担当していて、彼らが人生を再現するシーンはまるでリアルタイムで劇を観ているかのような手法を使っている。まさにここが真新しさだけれど、人間ドラマとしては見応えあっても絵が少し単調に思えてしまった(たぶん私の趣がない)。なぜだろうと考えたらバックグラウンドで、自分にとっての背景の重要さを感じたし、見方を変えて演劇として楽しんだらまた違ったのかな、と。

結局穴ってなんだったの?と視聴者に答えをゆだねる終わり方をしてるのが、穴の不可思議さと不気味さを増長させていた。“わからない”というのがSFとしては最高の終わり方なのかもしれない。

花咲舞が黙ってない

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地位なし、権力なし、怖いものなしの銀行員・花咲舞が銀行内の悪事に真正面からぶつかる痛快エンターテイメント。恐れながら杏さんの前シリーズは未視聴のため比較はできないが、池井戸潤さん作品はやっぱり面白い!天真爛漫、猪突猛進な花咲とわりと冷静風な相馬のコンビは後世に語り継ぎたいくらい本当に素晴らしくて。テンポよし、クスッと笑える間も完璧、いやはやこれは、演者の今田美桜さんと山本耕史さんの力技も大きかったのではないでしょうか……。

また、物語の中盤で注目された半沢直樹も、『半沢直樹シリーズ』をみていた身としては超唸る展開だった。最終回は綺麗に終わったものの、合併後を描いた『半沢直樹』を見ての通り銀行の闇は晴れ切っていない……そんな横道の地続き感を残す終焉もよかった。

アンチヒーロー

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殺人犯をも無罪にする“アンチ”な弁護士・明墨の活躍を描いたリーガルドラマ。明墨を通して「正義とは何か?」「悪とは何か?」を鮮烈に問いかける。作中の言葉を借りてもう少し具体的にするならば、「愛する人を守るために人を殺したら、それは悪なのか?」ともいえる。法的には悪だが、倫理的には正義、いや、そのどちらでもないかもしれないーー。おそらくこの議論に終わりはなくて、こんな風に少しの違いで善にも悪にもころがり得る弱い人間が、正義を振りかざして人を捌いている。そんな人が人を裁くことの危うさを炙り出し、世に放ったのがこのドラマの“アンチ”な部分であり、同時にひとつの主題でもあったのではと思う。

ハセヒロさんの7年ぶり日曜劇場復活も感無量……。役者さんもストーリーも、本当に本当に素晴らしかった。

社内処刑人〜彼女は敵を消していく〜

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謎の美女・深瀬のぞみが入社して以来、社内で事件が多数勃発。のぞみと友達になったほのかが、徐々に彼女の秘密と怪事件の真相に踏み込んでいく復讐エンターテイメント。

最近そういう枠があるんじゃないかってくらい定番化してきた、深夜ドラマの“復讐モノ”。毎話スカッとするわけではないが、謎が謎を呼び尽くしてからの最終回での種明かしは爽快感があった。一連の事件の犯行理由が女性部長自らの出世のためという。『アンチヒーロー』の瀬古判事もそうだったけれど、女性が社会的地位向上のために罪を犯すって、まだまだ女性が男性に比べて会社での地位獲得が難しいってことだし、女性の社会進出が浸透していない証拠だよなあ、と。

個人的には乃木坂時代めっちゃ見てた生駒里奈さんと『女子高生の無駄遣い』で好きになった中村ゆりかさんのタッグが嬉しかったな!

「Believe-君にかける橋-」

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大手ゼネコンの設計者・狩山陸らが参加する、東京都の一大プロジェクト「龍神大橋」で大事故が発生。会社のため、狩山は一旦は罪を被ることになるが、その裏ではある巨大な“何か”の存在が。真相解明のため奔走する、壮大な脱獄エンターテイメントが描かれる。

「日曜劇場」感のある“企業モノ”。キャストも主役級が勢ぞろいの豪華絢爛で、面白くないわけがなかった。以前「日曜劇場」の共通点はなにか?が書かれたコラムのなかで、「デキる嫁がいる」と挙げられていてかなり頷いたのだが、このドラマもキャストが天海さんということも含めて妻・玲子の存在が大きかったと思う。

個人的に、ラストの体感は“メリバ”。狩山は釈放されたが、社長とは分かり合えない、そもそもの事故の根源は成敗されない、玲子は死を彷彿とさせるような描写で、清々しい終わりを求めていると結構モヤるかもしれない。 再審をまるまるカットしたのは、9話終了だったからなのかなあ。

アンメット ある脳外科医の日記

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不慮の事故で記憶障害を負った脳外科医の川内ミヤビ。彼女の前に現れたアメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治。今日のことを明日には忘れてしまうなか、ミヤビはもう一度医者として患者に向き合えるのかーー記憶にまつわる“希望”と“再生”の物語。

医療ドラマとしての繊細さと緊張感、そしてヒューマンドラマとしての静かな温もりがとても心地よかった。いやあ、アンメットはすごい……。登場人物たちの感情がダイレクトに伝わってくるし、ミヤビ先生が笑ったときは私も嬉しいし、三瓶先生が苦しそうなときは私も苦しい。もうほぼ一心同体。それはひとえに役者さんの作品の咀嚼や憑依に相当する演技力の賜物なのだけど、とくに杉咲花さん、若葉竜也さん、千葉雄大さんには毎話心を射られ続けた。

Xでまわってくるドラマの裏話も毎回楽しみだった。知れば知るほど作品に対する熱量の高い、スペシャリストたちの集まりだったのだなあ、と。本当に暗闇を温かく照らす光のようなドラマなので、後世にたくさん語り継がれていってほしい。

肝臓を奪われた妻

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貧乏だが真っ直ぐに育った北山優香。中村光星と結ばれ幸せな結婚生活を送るはずだったが、彼の目的は妻の肝臓を奪い、自らの母に提供することだった。

復讐モノって精神的な苦痛が発端の作品が多かったけれど、この作品は肝臓という身体的な苦しみをはじまりにしていて、ありそうでなかった切り口が新しい。この物語の終着は“優香の幸せ”と“光星の自決(自分で自分に罰を下す方)”で、肝臓を奪われた妻の復讐譚という衝撃の割には丸くおさまった印象。でもドラマの軸にはずっと“愛”があることを考えると、光星の最後も筋が通っているので、これが最高の終わり方だったのかもとしれないとも思う。

伊原六花さん連ドラ初主演が嬉しかったのと、 戸塚純貴×子どもの画にハマったのと、加藤千尋さんの怪演っぷりがすばらしかったのと……などなど、hulu入ろうかしらと悩むくらい個人的にはもう一度見返したい作品。

燕は戻ってこない

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貧困にあえぐ派遣社員のリキは、職場の同僚に誘われた生殖医療エージェントの面談で「代理出産」を知る。日本では法整備がされていない「代理出産」をテーマに、女性の“生殖問題”に鋭く切り込んだ作品。

女性の貧困や倫理的観点から認められていない「代理母」など、表にはみえにくい社会問題が鮮烈に描かれている。とくにリキの貧困描写がリアル。お金を得たからといって何かが回復するわけでもなく、貧困を渡り歩く感じも超リアルだった。正直、リキ、悠子、基たちの発言には共感できないものが多い。三人の言い分はわかるけれど、絶妙に共感はできない、という不思議な感覚だった(なのにすごく面白い)。

でも唯一納得できたのが、9話で悠子が「私が残せるものは仕事しかないから、せいぜい虚勢はって働く」といったところ。基が代理母をたててまで子どもを欲しがるのは、一代限りになるのが耐えられなかったからで。悠子としては、子を残せないから仕事(自分の名前、もしくは生きた証)を残す。これ、私も思い当たるところがあったけれど言語化はできていなくて、今の最適解をもらえた気がする。自分が何かを残そうとするのって、至極真っ当なことだと安心感を覚えた。

 

◼️番外編

ブラック・ジャック

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連載50周年を記念したスペシャルドラマ。ブラック・ジャックが、さまざまな患者と人の命に真正面に向き合っていく。

このドラマは、詰め込む珠玉のエピソードの選出から順番、繋ぎ方まで本当にすばらしかった。メインのエピソード以外にも“あの回のあの場面だ”というのを彷彿とさせるシーンが多々あって、原作読み込んでる人は本当に嬉しく感動したに違いない。ピノコに顔で嫌な思いしたことあるでしょって聞かれて「いや、いい思い出しかないなあ」ってBJが笑ったところは絶対タカシを思い出したし、最後のピノコの助手のくだりは「肩書き」の皇帝陛下からだよね……!

そして、スペシャルドラマだからスッキリ終わってもいいところを、「ふたりの黒い医者」のあのやりきれないラスト持ってきたのも本当に最高。この読後感こそBJの真骨頂だ!と、思わず拍手してしまった。

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このラインナップで気づいたことがあるんです。私、恋愛ドラマ一本も見ていない!!! この感想書いている間にも『あの子の子ども』や『海のはじまり』など7月期ドラマが続々とはじまっていますが、夏クールは恋愛ドラマも見れたらいいなあ。